教育 :: 東京事変

by 東京事変 2004年作品
教育  僕はこう思う。椎名林檎にとっての東京とは新宿ではないかと。
僕自身にとっても新宿が東京の象徴であるため、彼女も同じ思考に陥っても不思議ではない。

 1980年代には、地方から上京した場所が「東京駅」と「上野駅」のいずれかによってそのイメージが二分されていた。当時は東京へ入る新幹線は東海道新幹線しかなかったため、東海・関西地方の太平洋ベルト地帯を中心とした地方は東京駅へ新幹線に乗って到着する。東京駅のイメージとあいまってそこにやってくる人たちの顔も希望に溢れた明るい印象があった。
変わって上野駅といえば東北地方から上京してくる人が多く、当時の暗い上野駅のイメージも手伝ってか何故かそこにいる人たちの表情も暗く印象があった。
という印象が強かった時代は確かにあった。駅もきれいになった今では想像しがたいが。

閑話休題。椎名林檎といえば「初めて完全に想像の世界で創造した」という「歌舞伎町の女王」という初期の名曲がある。
彼女の想像だけの世界でも歌舞伎町ははっきりとした存在を確立しており、それが新宿という街の力を象徴している。僕も大学が新宿区にあったということもあり、初めて接した東京とは新宿の街であるために余計そう感じているのかも知れないが。

椎名林檎は「オリジナルアルバム3枚出したら辞める」と公言していた。プライベートでも山あり谷ありであったが、その公言通り、3枚目のオリジナルアルバム後に「東京事変」というバンドを組んだ。

そのバンドのファーストシングル「群青日和」の歌いだし「新宿は豪雨」というフレーズは椎名林檎という希代のロックアーティストの新たな決意表明に聞こえる。
バンド名に東京を名乗り、最初の曲の頭が新宿というのは有意識にしろ無意識にしろ、初心に戻るという想いを公に訴える巧妙な方法である。作曲が椎名林檎ではなく 「H是都M(エイチゼットエム)」というのも含めて。

バンドの首謀者(メンバーのことをこう呼んでいる)が椎名林檎のサポートバンドで、なおかつデビューアルバムから一貫してアレンジを担当している「亀田誠治(B)」も参加しているので、東京事変というバンド名義とはいえ、椎名林檎テイスト満載のアルバムがこの「教育」だ。
デビューアルバム特有の「衝動による表現」に溢れているのは、椎名のデビューアルバム「無罪モラトリアム」に近いテイストだ。
しかし、流石ベテランメンバー揃いのバンドである。悪い意味での青臭さは皆無であり、自らの稚拙さから生まれる緊迫感など微塵もない理想的なデビューアルバムに仕上がっている。ひょっとするとバンド本人達にとっては遠慮している箇所もあるのかも知れないが、聞き手にはそんなことは一切関係ない迫力に溢れている。

以前に椎名林檎と戸川純の比較を書いたことがあったが、このバンドの出現によって戸川純の「ヤプーズ」や「ゲルニカ」を思い出してしまった。やっぱり僕の中ではこの両者の比較は恒久的に続いてしまいそうだ。

教育

 楽曲紹介
曲のタイトルを順番に読んでみるとひとつのストーリーになっているようにも思える。
特に「入水願い」「遭難」「クロール」という水関連、「現実に於て」「現実を嗤う」あたりはそれが顕著だ。

  1. 林檎の唄

  2.  聞き手の度肝を抜く一曲目にふさわしい。椎名林檎名義でもリリースしていた曲であるが、アレンジがバンド流。「無罪モラトリアム」での「幸福論」を思い出してしまった。
  3. 群青日和

  4.  シングルにもなった、東京事変の代表曲だと言える。アルバムのなかで一番ポップで、東京事変というバンドを表現するのに適した名曲。個人的には2004年No.1ソングです。大好きです。
  5. 入水願い

  6.  これも初期の椎名林檎に近いのだが、巻き舌度が現象している。バンド
  7. 遭難

  8.  2ndシングル曲。椎名林檎には存在しなかったタイプの曲だと思う。やはり戸川純の昭和歌謡ロックテイストを感じてしまうが、当人たちはまったく意識していないのだろうな。
  9. クロール

  10.  一瞬、Van Halenの"You Really Got Me" のリフかと思ってしまう、ハードなギターがサウンドを引っ張る。このバンドはドラムが格好良いと思うのだが、そのドラムが堪能できる曲。
  11. 現実に於て

  12.  ピアノのインスト。というか次の曲のイントロという方が正しい。
  13. 現実を嗤う

  14.  ちょっとプログレの香りも漂う、英語詞のバラード(?)。別にUtadaになりたいわけじゃないわよ、という林檎による英語の唄は結構好きです。
  15. サービス

  16.  70年代のイギリスロックのような破壊力と前衛性テイストに溢れた曲。アルバム全般で聴けるのちょとふざけたようなキーボードの使い方が、この曲では特に効果的だ。
  17. 駅前

  18.  これまた、戸川純&ゲルニカっぽいイントロのピアノリフが面白い。とはいえこの切ないメロディはいかにもというべき椎名林檎節。ソロ名義でやっていたらこういうアレンジは無理だったかも知れない。そういう意味ではもっともバンドっぽい曲ともいえる。
  19. 御祭騒ぎ

  20.  お祭り騒ぎというタイトルにふさわしく、サビではラテン系のリズムとメロディが聴ける。このあたりの転調はちょっと変態的ではあるが、僕ははまってしまった。佳曲。
  21. 母国情緒

  22.  どうしても比較してしまうのだが、これも戸川純っぽいです。童謡っぽいメロディも戸川テイスト。僕は両者とも大好きなのでこういう曲は大歓迎です。この曲を気に入った人には戸川純も聴いてもらいたいですね。
  23. 夢のあと

  24.  ラストを締めくくるにふさわしい美しいバラード。林檎メロディはやはり良いです。テンションコードの使い方に豊富な経験を感じます。さすが。
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コメント(2)
sylvian :2004年11月28日 18:51

TBありがとうございます!とても詳しいレポですね。楽しく拝見しました。亀田氏のベースはズンズンきて私的にお気に入りなんですよ。戸川純って聴いた事ないんですけど、レビューを見て聴いてみたくなりました。御祭騒ぎは本当によく出来た曲だと私も思いました。

MY :2004年11月29日 16:08

TBありがとうございました。
久々に新宿に行ってみたいと思いましたわよ。
ウフフ。

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